第5話 初めてのわがまま
――自分の幸せ第一、余裕があったら他人くらいでちょうどいい。
婚約者であるナイトブルーム王国第二王子との会食の場で、ふとルシアンの言葉を思い出す。
わたしはいま、その言葉通り振る舞えているだろうか?
……できていれば、ここにいない。学園にサロンで集まるという誘いに乗って、いまごろルシアンたちと一緒にいたはずだ。
けど、これは自分で決めたこと。そう思うけど、本当に? という疑問がついて回る。
「――はい、とても」
食事が合うか? と王子に尋ねられて、笑顔で応える。迷っている胸中とは裏腹に、口は勝手に動いてこの場に相応しい言葉を選んでいる。
自分で……なんて嘘だ。結局、わたしに自分なんてない。
婚約、結婚。
それは母のためで、ひいては国の民のためになる。
両国の友好の証。そして、わたしが他国に嫁ぐことで、王位継承争いの火種がひとつ減る。
それは誰かのためになることで、けれど、わたしのためだけにはならないこと。
でも、王族なら……国の王女であるならば、そんな私情を押し殺すのは当然だ。なのにわたしはその当たり前を捨てようとしている。
同じ王女なのに、自分の気持ちを素直に伝えるイリス。
公爵令嬢でありながら、凶行に及んでまでも好きな人を手に入れようとしたアイシア。
そして――権力者との婚約の申し出を断って、抗い続けているルシアン。
学園に入学してからの月日は短い。
春から夏へ。まだ季節は一巡もしていなくて、わたしの人生の中でもその割合は少なかった。
それでも、わたしは見ていた。
ずっと彼彼女たちを傍で見ていて、こうするべきだと思ってしまった。本能と理性。どちらもがわたしの意思に反することなく、自然と心を音にする。
「――他に好きな人がいても、よろしいでしょうか?」
それは、いままで自由のなかったわたしの――初めてのわがままでした。
◆第2部_fin◆
__To be continued.