第2話 婚約の真偽を確かめに登城

 そんなまさかと思う。なにかの間違いだ、と。
 ただ、どうあれ王女からの手紙が届いたのは事実で――中身はアレだが――真相を確かめるためにも登城しに、王都に向かっていた。

 揺られる馬車でケツが痛い。

「父上、なにかの間違いでしょ? 手紙でもよくない?」
「どう訊くんだ?」

 どうって。

「『宛先間違ってますよ!』って」
「お前には二度と手紙を書かせない」

 なんでだ。
 中身アレなんだから、こっちもアレでいいだろう。手紙をゆらゆら振っていたら、「やめなさい無礼だ」と叱られた。
 ここ数日の登城の旅で、これはもしやイタズラなのでは? とも思い始めている。これが正式な婚姻の知らせとか、ないない。

「ともかく、あとまもなくで王都だ。お前は余計なことはせず、大人しくしていなさい」
「一番余計だったのは父上がお見合いさせたことだろ」
「こんなことになると誰が思う!」

 そうねごめんなさい。

  ◆ ◆ ◆

「つっかれた」

 ずっと座っていたから、背中が固まってる。反ったらペキペキ鳴るし。登城するのも楽じゃない。今回は急いだから、途中の町でもほとんど休めなかったし。
 肩を回してほぐしていると、入城の許可を貰いに行った父上が戻ってきた。

「すぐに謁見できるそうだ」
「え? 陛下に会うの?」
「当たり前だ」

 どこの世界の当たり前だろうか。とりあえず、俺の知っている世界ではなかった。一応、早馬で連絡はしていたとはいえ、友人の家に遊びに行くんじゃないんだから、城に着いて早々会えるわけないんだが。

「……暇なのか、王様」
「お前ぜったい口開くんじゃないぞ?」

 心の底から不安そうな目を向けられた。
 いや、俺だって本人を前にして言わないから。そこまで常識外れじゃない。ほんとほんと。

  ◆ ◆ ◆

「――よく来た息子よ!」

 えー。
 案内された部屋で少し待っていたら、突然入ってきたおっさんに息子扱いされた。ガッシリ手を握ってきて、ブンブン上下に振られる。

 感涙しそうなほど喜んでいて、感情の大きさについていけない。そこはかとなく、陛下に似ている気はするが……。

「誰、このおっさん」
「処刑執行日にしたいのか!?」

 父上が絶叫していた。元気ね。

「陛下、愚息がとんだ失礼を……!」
「気にしなくていい。急にこんなおっさんに喜色満面で手を握られたら、誰だって驚く」
「そのようなことはございません!」

 快活に笑うおっさんに対して、父上は地面に額をこすりつけそうなほど平伏している。
 え? ガチなん? 陛下だったの?
 いや、似てるとは思ってたけど、なんかもっと厳かというか、威厳があった。翻って、目の前でそれはご機嫌そうに大笑している男は、印象が真逆だ。王冠もマントもない、貴族の華美さとは無縁のラフな格好をしていて、下町の酒場で飲んだくれていても不思議じゃなかった。

「本物……? つまり、俺は今日無礼打首?」
「いいよ。ただのおっさんで間違ってないから」
「あ、そう?」
「そう」

 ひとりごとなのに返事があって、誰でしょうと横を向く。そこには、黒髪黒目の第三王女様がいて、ポケットに手を突っ込んだままこっちを見てきた。

「よ」
「よ」

 思わず同じテンションで返したけど、俺って王城で王族に会ってるんだよな? 友達の家に遊びに来たとかじゃないよな?
 王族に会うというには、礼節とも格式とも遠い混沌とした状況に、もはや自分がなにをしに来たのかさえわからなくなっていた。

 なんかもう……帰ってよくない?