第2話 クラスの女子と混浴して、裸で密着するのは犯罪ですか?
『――律が言い出したことだよね?』
で、押し切られる俺もどうかとは思う。思うが、誘ってくる灰野も灰野だ。雷鳴ってるのに、このあとひとりで入るの? とか言われて、それなら一緒に入った方がまだいいかなーとか思ってしまったのが悔やまれる。
「クラスの女子と風呂に入るとか」
「背徳的ー」
「そうだねー背徳的だねー」
ガチだから困る。
お湯は透き通っていて、灰野の裸身はなににも隠されていない。膝を抱えているから大事な部分こそ見えないが、ぷかっと浮いた肉感的な胸がエロい。
「気になる?」
「や、浮くんだなーって」
「おっぱいだからね」
そうか、おっぱいだから浮くのか。漫画の世界だけだと思っていた。
はぁ、と息を吐く。白く、やたら熱い吐息。
やたら意識してもしょうがない、か。適度に温まったら出よう。
「狭い」
「そりゃ、ひとり用だもの」
いい歳した男女が一緒に入れば縮こまるしかない。猫みたいに体が液体ならどうとでもなるんだろうが、俺たちは人なので水にはなれない。
「んー」
お湯の中。
足の裏で脛を踏んでくる。ぐっぐっと押したところで広がったりしない。
「見えるぞ」
「勝手にどうぞ」
見ちゃまずいだろ。
パンツのさらにその内側だ。女性の神秘は軽々しく覗いていいわけがない。軽すぎるし、もっと羞恥心を持ってほんとに。
「あ、そうだ」
「……急に立たないでくれません?」
全部見ちゃったよ。
「女性らしい慎ましさとかないの?」
「あるよ」
「なら隠して」
「律以外には」
「…………ずる」
その言い方は、なにも言えなくなる。
顔と目を逸らすと、視界に白いお尻が迫ってきた。
「は? いや、なに?」
そのままお尻は下がっていき、背中がすーっと下りていく。かと思えば太ももにふにっともちもちとしたクッションでも落ちてきたような重さが乗っかり、体がガチッと石になった。
「…………灰野、さん?」
「やっぱりお風呂は足伸ばしたいよねー」
はぁぁっ、と気の抜けた声を出して。
こっちはまったく気が抜けないんだけど?
「さすがに、裸で、膝に座るのは、駄目じゃね?」
灰野が膝の間に収まっている。
裸で。
シミひとつない背中が寄りかかってくる。お湯とは違う柔肌が、体全体に密着してきた。それがやたら気持ちよくて、同時に罪悪感めいた羞恥心が全身を火照らせる。
「この方が気持ちいいでしょ?」
「……そうね」
見上げてきた灰野に、それしか言えなかった。もう好きにして。
顔がありえないくらいに熱い。お湯に浸かってからそんなに経っていないはずなんだけど、逆上せたのか。ただ、羞恥も一定を超えると、なんかもういいかって気持ちになってくる。
「♪」
指で水面を叩いて、飛沫を上げて楽しんでいる灰野を見ると余計に。
俺だけ緊張しているのがバカらしくなる。
灰野のお腹に手を回す。
「へんたいだー」
「楽な姿勢なんだよ」
「それならいい」
いいのか。
ラインがゆるゆるだ。後ろから大きな双丘が見えて、大迫力なんて思ってない。
「これが裸の付き合い」
「普通、同性とだけどな」
「ふふふ」
笑い事じゃない。
「でもさ、気にならなくなったでしょ?」
雷、とその声が笑っていて、そのために? と思う。
「……ショック療法にしても、やりすぎだろ」
「刺激的でしょ?」
「電気ショックかと思った」
「心臓は……動いてるね」
ぴとり、と耳を俺の胸に当ててくる。
横を向いて、そのせいで灰野の横乳が触れた。…………柔らかっ。
「あ、速くなった」
「ドパガキだから」
強い刺激で心臓が倍速になってる。
「……よくないなー」
境界が曖昧になっている。
守らないといけない線を踏み越えた感覚がある。でも、それを踏み越えたからといって、なにかが変わるわけじゃない。
なら、いいのだろうか。別にこれくらい。
世の中には混浴だってある。男女が一緒にお風呂に入るくらい普通……。
「普通かなぁ?」
「律の常識が揺らいでる」
「抜けかけの乳歯」
「ぐらぐらだー」
そりゃ、こんな密着されたら抜けるだろうよ。
「……いいでしょ、別に」
灰野がぼやくように言う。
「世間の常識なんて、どうでも。私と律がいいなら、いいでしょ」
「法治国家も型無しだな」
「ここは治外法権だから」
ぱちゃん、と灰野が水面を叩く。
水飛沫が飛んで、顔にかかった。
「風呂だけ治外法権って……なんか卑猥じゃない?」
「お風呂屋さん」
「エッチすぎる」
ローションないかなー、って灰野が浴室内を見渡す。ないから。
「そういえば」
「なに?」
濡れた後頭部を預けてくる。
「私も恥ずかしくないわけじゃないから」
ぴちょん、と灰野の髪から雫が落ちた。
水の音が反響する。赤くなっている耳がいまさら……目に入った。
「…………いま言うなよ」
おでこを灰野の肩に当てる。
どっちの熱かはわからない。