第2話 休日の教室で、ふたりだけのお昼休み
普段の学校みたいに、朝から夕方までぶっ通しというわけでもないらしい。
「昼もないしな」
学校行事の準備とはいえ実質的にはボランティアだし。
みんなのためにがんばりましょーなんて奉仕精神だけで1日8時間無償労働を強いるわけもないか。
「にしても、変な感じ」
いつもと同じ教室なのに、誰もいないと別の場所みたいだ。
静かで、どこか無機質さすら感じる。
窓を開けたら、秋から冬に変わる冷たい風がふわりと吹き込んできた。残暑が続いていたとはいえ、10月も終わりに向かえばどうしたって気温も下がる。
制服に着替え終えて、自分の席に座る。こういうのをノスタルジーというのか。在学中で、過去や思い出にするには早すぎるけど。
「席着いてるねー? じゃあ、授業を始めようか」
「……」
人がセンチメンタルに浸っていたのに、あっさり空気を壊す生徒会長が1名。
「空気読んで?」
「先生はKYではありませーん」
そんなトイレじゃないみたいな。
灰野も制服に着替えていて、教壇の上で先生ごっこ。普段の教室とは違って人の目がないからか、その振る舞いはネカフェのそれだ。
「今日は先生とふたり切りで補講だよ」
「エッチすぎるー」
「授業内容は保健体育」
「エッチだ」
「めしべとおしべが」
「それは生物」
チョークで黒板に花っぽいものを描いて、
「飽きた」
「自由すぎる」
ぺいっとチョークをあっさり戻した。
「お腹空いた、佐藤くんお昼ー」
「俺はお昼じゃありません」
「ほんと? 食べてみよう」
てこてこ歩いてきて、人の指に噛みつく。躊躇して。
「さっき手、洗ったばっかなんだけど?」
「ほうほほはっはへ」
「注文の多い料理店の客になった気分」
「クリームを顔や手足にすっかり塗ってください」
ガチで食べられそう。
「食えたもんじゃないなー、責任者を出せー」
「お客様、それは食品サンプルです」
「そうなの?」
「そうなの」
「そうだったのかー」
ぺっと人の指を吐き出して、灰野は前の席に座る。
「……よだれで汚れたんだけど」
「舐めていいよ?」
冗談でやろうかなーと、ちらっと思ったが絵面がヤバすぎるのでさすがにやめておいた。好きな子のリコーダー舐めるくらいには犯罪的だから。教室でクラスの女子に指を舐められるのも、十分ヤバい絵面だったけど。
「昼って言うけど、俺、なにも持ってきてないぞ」
午前中だけだって聞いてたから。
言ったら、ふふふっと灰野が不敵に笑い始めて、鞄の中をがさごそしだす。
「甘い、甘いなーホームベースくん」
「ホームズです」
この場合、ワトソンだと思うし。
「その程度、百万石の頭脳を持つ私にとっては未来に行って帰ってきたようにお見通しなのだよ」
「百万石の頭脳 is なに?」
「ちょーすごい」
さいですか。
「じゃーん、コンビニのホットスナック祭り!」
コンビニ袋の中にチキンとかポテトとかが入ってる。
「……」
「なにその『これじゃないんだよなー』みたいな期待外れの顔」
「これじゃな」
「言わせないけど」
えいっ、とポテトが口に突っ込まれる。
冷めてパサパサ。
「人がせっかく用意したのに」
「ふぁふぃふふぇふぉ」
「バイ◯ンマン?」
あなたに突っ込まれたポテトで喋れないだけです。
ごっくんして。
「こういうときは手作り弁当なのかなーって」
「え、面倒」
「だよねー」
灰野は作りそうにない。
納得しただけなのに、なんか不満そうに下唇をぐっと持ち上げてるんだけど。
「そういう女だからーみたいのはよくないと思いまーす」
「男女平等?」
「家事分担はフィフティーフィフティー」
「まぁわかる」
「あなたの給料は私のもの」
「世界平和が実現しないわけだ」
夫婦間ですら不平等条約が結ばれるんだから。
「……私の手作りお弁当、食べたい?」
「いや全然?」
机の下で足をげしげしされた。
「ホットスナックは没収でーす」
「いいけど」
俺のじゃないし。
灰野は子どもみたいに頬をぷくーっとさせて、チキンをもそもそ食べて……。
「はい、あーん」
「寂しくなったの?」
食べかけチキンを口元に運んできたので食むる。揚げたてじゃないからジューシーさはないけど、それでもやっぱり油物は美味しい。
「……学校で律とお昼ご飯一緒にしたかったの」
平日の学校で絡むことはそんなにないからな。
絶対にできないってわけじゃないけど、率先してやる理由もない。でも、こうして実際にやってみると、
「悪くないかもな」
「そこは最高だねって言うところでしょ」
「さいこー」
「いぇーい」
適当なノリに適当なノリ。
でも、学校でのお昼ってそんなもんだと思う。
「あ、待って。先にSNS用の写真撮らせて」
ラーメンのびるやつ。