第3話 修学旅行の班決めでハーレムは漫画の中だけ

 家に帰って、手を洗う。
 そして、鏡で顔を確認。

「……優莉♥」

 頬に触れる。
 女子ってハート使いがち。

  ◆ ◆ ◆

「灰野さんその簪かわいー!」

 人気らしいパン屋のミステリーを読んでいたのだが、朝には頭に響く高い声が聞こえて顔を上げる。
 同じ列。
 先頭の席に女子が集まっていて、灰野の髪――挿さっている簪を見ていた。

「似合ってる?」
「すっごく!」
「知的な雰囲気の委員長に抜群だね!」

 知的(失笑)

「大和撫子って感じだよ」
「あ、もしかしてこの前の着物の?」
「うん、そうなんだ」

 簪ひとつでキャッキャしてるなー。
 てか、つけてきたのか、学校に。灰野の後ろ髪で白い蓮の花が咲いている。それを見ていると、どうにも羞恥心にも似た感情に背中をくすぐられて、手元の本に戻る。

「自分で買ったの?」
「プレゼントだね」
「男の人?」

 無理。
 いくらシャットアウトしようとしたところで、人間スマホのようにON/OFFを切り替えられない。朝のHRまで時間はないけど、ギリギリまで外にいよう。

  ◆ ◆ ◆

 担任の先生が入ってきて、HR。

「今日は午後のLHRで修学旅行の班を決めてもらうので、みんな考えておいてね」

 それだけ言って、先生は帰っていく。
 教室はといえば、爆弾でも落とされたように一斉に席を立ち上がって、さっそく修学旅行の班について話し合っていた。

「修学旅行か」

 そういえば、そんな季節だったか。
 場所は修学旅行ランキング1位の京都。ド定番すぎて、そこらから千葉や大阪がよかったという声が聞こえてくる。ヒント、テーマパーク。

 あっさり決まる生徒、右往左往する生徒。
 俺は別にどこに入ってもいいので、最後の余り枠として待機する。友達いないとこういうときに焦らない。強がりとかではなく、考えないというのは楽だった。

「いいんちょ、一緒しよー」
「もちろん」

 灰野はあっさり決まってる。さすがの人気だ。

「ふくいいんちょも一緒にどぉー?」

 なんか誘われたんだが。
 こうして巻き込まれるのは珍しい。ひとりでいるのが好きです、というのを1学期の間に浸透させたから。なのに、なんで誘ってくるんだ?

「空いてるの?」
「1枠限定!」

 なんか男子がそわっとしている。

「でも、女子のグループだろ?」
「ふくいいんちょならおーけー」

 ね?
 と、灰野や他の女子に聞いている。うんうん、頷いて、灰野を見ると笑顔だった。

「佐藤くんがよければ」

 副音声は聞こえない。聞こえることがおかしいのは置いておいて。
 灰野たちと一緒かー。空気に徹するならどこだろうと一緒だろうけど、誘われた理由の方が気になる。灰野が言い出したわけじゃないだろうし。

「委員長がいいなら」

 と、言ったらなぜかキャーキャーされた。なんで?

 ――そうやって、午後になる前にある程度班が決まったわけだが、

「修学旅行の班を決めます。あ、ただし男女混合班はなしですからね」

 俺はあっさりと放り出された。
 そりゃそうなるか、ご時世的に。

  ◆ ◆ ◆

「ハーレム班じゃなくて残念だったねー」

 机の中に白い紙。
 臨時のネカフェで呼び出したと思えばこれである。しかも、俺の膝を枕にして。

 からかうためだけに呼び出したのか?

「そうねー残念だねー」
「一緒の部屋で寝れたかもしれないのに」
「夢があるねー」

 夢でしかないが。
 班決めといっても、京都巡りの班であって、旅館の部屋は別に決まっている。

「結局、どの班なんだっけ?」

 灰野が顔に手を伸ばしてくる。

「……男子の班」
「そうだけど、そうじゃない」

 ぐにぐにと。
 なにが面白いのか、両手で人の顔を弄んできた。

「クラスメイトの名前覚えてないの?」
「田中真田田畑」
「いないよ」

 ひとりくらいかすると思ってたのに。
 数撃っても腕がないとどうしようもないらしい。

「律は他人に興味ないよねー」
「ないわけじゃないけど」

 中学くらいのときには友達もいた。
 高校になってそうした付き合いから距離を置いたというだけで。

「幸せの定義は自分で決めるから」
「なにそれ? イミフなこと言う俺かっけー?」
「格好いいだろ」
「うん」
「……否定して」

 自画自賛ほど、格好悪いものもない。

「私はいいと思ってるから」

 顔から首の後ろに手を回して、引き寄せてくる。
 上下逆さまで、目だけが同じ高さ。
 笑うように、ベージュの瞳が細くなった。

「で、私は?」
「世界一かわいいよ」
「いぇーい」

 雑に褒めても喜んでくれるのは安上がりでいい。
 上体を起こして、漫画に戻る。今日は推し活アイドル本。

「足痺れてきた」
「がんばれー」

 膝の上から捨てる。世界一かわいいクラスメイトを。