第4話 クラスのいいんちょカップルが尊い
「……」
ぼーっと、新幹線の車窓を流れていく景色を眺める。
初めて見たかのように壮大な富士山がどんっと構えていて、自然は雄大だなー。…………うぷっ。
「佐藤、平気?」
「……大丈夫」
隣の席になったクラスメイトが心配してくれる。もしかしたら、えろえろからの自分の身を心配しているかもしれないが、いまはそんなことを邪推している余裕もない。
東京駅から電車に乗って、見事に酔った。完全に。胃からせり上がってくる感覚があって、キモヂワルイ。
そっか……俺、乗り物に弱かったんだ。
交通機関使った長距離移動なんて久々だから忘れてた。酔い止め飲むんだった。まだ半分近くあるとかほんと笑える……笑いたい。
「佐藤くん、大丈夫?」
「…………ツッコむ元気はない」
なんかしれっと委員長、灰野が隣に座ってた。
いつ入れ替わった。手品かよ。
「気分が悪そうだったから、クラス委員長として心配してるんだ」
「……へー」
その心配顔は本当っぽく見える。
突いて『本当に心配してる?』と確かめたいが、そんなことしたらロイヤルスムージー(隠語)がえろえろするので窓に向けた顔は固定するしかない。
窓に反射する灰野が眉根を寄せている。
「これ、水と酔い止め。いまからでも飲んだ方がいいよ」
「準備いいね」
「委員長だから」
それで納得できない辺り、俺はネカフェの灰野に毒されている。
「大丈夫? 飲めそう?」
「…………袋」
「はい」
さっと手渡してくる。準備万端ですね。
錠剤と水を飲む。喉の音が内側から響いた。
「治った?」
「……俺なに飲まされたの? えりくさー?」
そんな即効性あるのは逆に怖すぎる。
「私の愛、かな」
なんてね、と灰野がちろりと舌を出す。
お茶目でかわいいね――と、他のクラスメイトなら言ってくれるかもしれないが、絶賛いまにも溶けてスライムになりそうな俺にはそんな余裕はない。
「はいはいかわい……うぷっ」
「ごめんゆっくりしてて」
委員長モードの隙間から素の灰野が見えた。
「でも、水飲んだら少し楽になった、かも」
「気分って大事だから」
座椅子に深く腰掛ける。
薬が効いてきたわけじゃないんだろうけど、瞼を閉じると少し……眠くなってきた。
「寝ていいよ、起こしてあげる」
「……今日の灰野は甲斐甲斐しいな」
「律だから」
小さな囁き。
今日の副音声はやけにハッキリと聞こえたな。前髪を撫でるような感触が心地よかった。
▢ ▢ ▢
ヤバい。
むっちゃ尊み。
通路を挟んだ反対側の席で、いいんちょがふくいいんちょのお世話をしてる。
『委員長だから』
って、言って福田っちと席を交換してたけど、どう見ても委員長という雰囲気じゃない。
寝ているふくいいんちょの頭を撫でて。
穏やかな微笑み。その顔は委員長としての義務感とか、弱ってるクラスメイトが心配だからとかからくるものじゃないのは、女子が見れば一発でわかる。
ちょいちょいチャットグループとかで牽制してるというか、裏で野球選手と付き合ってる女子アナみたいなことしてんなー、とは思っていた。でも、こうして見せつけられるとガチだったかーとむっちゃ驚く。
でも、なんか……いいなぁ。
好き好きアピとかじゃなくて。
当たり前にふたりでいるみたいな、そういう空気。クラスの男女カップルを推せると思ったのは初めてかもしれない。
「あとで写真撮らせてもらお」
待ち受けにすればご利益ありそうだし。
わたしも恋したーい。
◆ ◆ ◆
ようやく京都駅に到着。
「……なんでバス」
即バス。死ぬ。死んだ。
無事、輪廻転生をはたして昼食。もちろん、体調不良続行中で胃に入るわけもなく、もそもそ食べて終わった。
本当ならそこから陶芸体験とか忍者とかがあったんだけど、レフェリーストップという名の『旅館で休んでる?』という先生からの助け舟でタクシーに乗ってひとりクラスから別れて旅館へ。
宿のチェックインは16時からだったらしいが、修学旅行で貸し切りだったのが幸いして部屋に通してくれた。ありがたい。
「……修学旅行来て、初日からダウンとか酷いなー」
ははは、ともはや笑えてくる。
いつかこれも思い出になるのか。なってくれ。
「せめて明日はゆっくり回れるといいけど」
でも、班ごとに観光タクシー使うとか言ってたな。……酔い止め飲もう。
額に腕を置いて、木造の天井を見つめる。旅館だなー。
――で、
「おはよう」
「……おはよう」
寝て起きたら、天井じゃなくて笑っている灰野の顔があった。