第1話 クラスの女子にぺたぺたお腹を触れる男子の気持ちを求めよ
ずるずるとひやむぎを食べる。
風鈴がちりんと涼やかに響いて、夏だなー。
「……明日はアレンジしよ」
夏休みが始まってから1週間。母の貰い物で溜まったひやむぎやそうめんを毎日昼に消費しているけど、量が量だけにひとりで消費するのは厳しかった。
せめて、母が一緒に食べてくれればいいんだが、帰って来ないし、居ても寝てる。
「担々麺風にでもするか」
レシピアプリでタプタプ探す。
この時期になると、誰も彼も考えることは一緒なのか、アレンジレシピがかなりある。俺もなんかレシピを上げてみるか。暇だし、ポイントも貰える。
既存レシピをちょいアレンジして。
「激辛担々麺風そうめん」
ありか?
冷蔵庫をチェック。輪切りの唐辛子はあって、豆板醤が……ない。ただ、惣菜のお寿司で使わなかったわさびがある。ありか? わさびを使った担々麺。
「美味しいかはともかく、担々麺と呼ぶのか……ん?」
スマホにメッセージ通知が来る。
俺のスマホに連絡するのなんて、母と灰野くらいなものだ。2択。ここに昼間と付け加えると、確定する。
「『冷静トマトそうめんは飽きた』」
冷静トマト……それはとってもクールですね。
とりあえず煽っておいて、やっぱりどこも似たようなもんなんだなと思う。
◆ ◆ ◆
「冷静! そうめんアレンジ選手権を開催します」
灰野が宣言する。
部屋の扉をくぐってすぐのことで、最初から構えていたらしい。とりあえず、この前揚げ足を取ったのを根に持っているのだけは伝わってきた。
「冷静という割にはあっつあつですね」
「至って冷静だから。ただの誤字なのにこれ見よがしに『ぷぎゃーww』と笑いものにした友達いないぼっち野郎と不毛なレスバトルをしないで今日まで我慢していたんだから、ちょー冷静」
「よかった、俺じゃない」
クールとしか送ってないから。
なのに、胡座をかいていた太ももを踏まれる。今日、灰野はサンダルで素足。足の裏がぺたぺた太ももにくっついてくる。
「おしゃれだね」
「でしょ?」
足の親指をくいくいしてくる。
水色のペディキュアで、星粒みたいのがキラキラしていた。爪のおしゃれってのはわからなかったけど、女の子の素足にはよく似合っている。
「律もやる?」
「そうめんは?」
「なんかアレンジ出して。飽きた」
途端に興味が失せたように倒れる。足だけは俺の太ももに乗せたままで、パタパタしてくる。
とりあえず、その足を掴んで、揉むように押す。
「担々麺風は作ろうとかなって」
「他には?」
「油そば風」
「あー……夏によさそう」
反応もないのでぺいっと横に捨てる。
「なら、作って」
「ネカフェで作れないだろ」
「うち、はー……無理」
上がる気もない。
「律の家は?」
「基本、俺しかいないんだよ」
「よし決定」
「私有地立ち入り禁止」
男の家に、しかも誰もいないときにクラスの女子を上げるのには抵抗がある。ネカフェでふたり切りになっているのになにをいまさらと思うが、最後の一線を守るのは大切だ。
「でも、飽きた」
「レシピ送る」
「作ってー」
足で足をぺちぺちしないで。
「母親に作ってもらえよ」
「それはそれでやるけど。律の手料理が気になる」
「目的変わってない?」
そうめん飽きたからアレンジしたものを食べたいから、俺に料理を作ってほしいになっている。
「いいでしょー、減るものじゃないし作ってよー」
「減るだろ、材料」
「りーつー」
プロレスのタックルみたいに突っ込んでくる。
冷房は効いているとはいえ、外の暑さはまだ体に残っている。じゃれ合いは暑苦しいし、夏で薄着だから素肌同士がくっついて背徳的。
「……なら、作って持ってくる」
「私の勝ちだ」
「はいはい負け負け……いや、離れろよ」
「あついー」
なら、余計に。
抱き着いたまま動かない。頭の位置が、俺の下腹部に近くてそわそわする。臨戦態勢ではないが、だからといって女子の顔が傍にあるのは落ち着かなかった。
「意外と逞しい」
「うひゃやっ!?」
服の中を灰野の手が這い回って足先から頭にかけてぞわりと震え上がる。
「女の子みたいな悲鳴かわいいー」
「黙れ痴女」
「罵倒が単調だねぇ」
俺だって女の子に素肌を触られれば冷静でいられないっての。相手が灰野であってもだ。
「……舐めたらしょっぱいのかな」
「赤ちゃんかよ」
人の腹を見てぼそっと怖いことを呟くな。
ほっといて本当にやられたら今後俺は『クラスの女子にお腹を舐められた人』になるので、絶対に阻止しなくてはいけない。既に『クラスの女子にお腹を撫でられた人』ではあるが、たぶんセーフ。
灰野の脇にずぼっと手を突っ込んで、フラットシートに放り投げる。
「きゃー」
と、やる気のない悲鳴を上げて、灰野が転がる。ごろごろ。壁際でぴたっと止まり、戻って横向きになる。ぽてっと両腕を投げ出して、ぼーっと無気力な顔になっている。
「……アイスココア」
「スポーツカーかよ」
燃費が悪すぎる。
砂糖の過剰摂取で血糖値上がってるんじゃないのか。持ってくるけど。
立ち上がると、ふはっ、と笑われた。
「やっさしー」
灰野のお腹をぺちんっとしてから行った。柔らかかった。