第3話 借り物競争のお題で生徒会長が手を繋いできた

 生徒会長のイン◯タを見てたら、うわーっとなりました。

「匂わせですねー」

 教室の写真が載っていて、お昼を食べているところ。
 机の上にコンビニのホットスナックが並んでいて、わかりやすいご飯ナウだと思います。女子、ご飯の写真上げがち。それだけならどこにでもあるんですけど、写真の端っこに映っているものが問題です。

「男性の手、ですよね」

 ホットスナックに混じって見切れています。
 映す気はなかったけど、やっちゃったぜー、みたいな雰囲気。ですが、生徒会長としての真面目な仕事ぶりを見ているとそんな初歩的なミスをするような方には見えません。

 つまり、これはあえてで。

「……1年男子の憧れは早くも散りましたか」

 美人でスタイル抜群。胸も大きい。
 勉強もできて、雰囲気誰にでも優しそうな年上生徒会長です。就任挨拶で1年生の間でも美人生徒会長として噂が広がって、淡い憧憬を抱くクラスメイトもいましたが、芽が出る前に種が地中で腐ってしまいましたか。

「アニメの世界ではありませんからね」

 優しい美人な先輩が誰ともお付き合いしていないわけがありません。

  ◆ ◆ ◆

「宣誓! 私たちはスポーツマンシップに則り――」

 晴れたなー。
 校庭で澄んだ青空を見上げながら、どこかで聞いたことのある体育祭代表の言葉を聞き流す。ワンチャン雨が降ってくれないかなーと思ったのだが、すこぶる快晴でガッテム。

 中止になったらなったで休日登校で準備手伝ったのになーと思いもして、複雑な男子心というやつだ。

 クラスの席でぼーっとしていたら、さっそく呼ばれてしまう。
 100m走。
 手は上げてないのに、しれっと決まっていた。体育の体力測定の結果とか。できれば、全員参加以外の種目には出たくなかったけど、短距離短時間で終わるのだから許そう。

 レーンの横で座って並んで、ピストルがパンパンパンパン。
 あっさり俺の番になる。

「位置について――」

 発砲。
 全力で走って、ゴール。

「あー、疲れたー」

 息が上がる。
 けど、頑張った甲斐はあって、1位だった。運動部がいなかったのが功を奏した。勝ったから賞品が貰えるわけじゃないが、負けるよりは気分がいい。
 クラスに最低限の貢献はしただろうし。

「ん?」

 なんか、スマホカシャカシャ前髪シースルー女子に手を振られた。
 体育祭の写真係?
 でも、スマホだし。
 よくわからないが、後ろの人だったという勘違いでもなさそうなので、振り返しておく。一緒にいた女子とキャッキャして行ってしまった。

「……なんだったのか」
「――1位、おめでとうございます」

 やけに明るいのに、重さのある声だった。
 後ろに体育祭スタッフの腕章をつけた灰野が笑顔で立っていた。目が笑ってないように見えるのは気のせいだろうか。

「1位の方はこちらへどうぞ」
「あ、あぁはい」

 有無を言わせぬ迫力で、灰野の後についていく。
 1位の最後尾に並んで座ろうとしたら、後ろから肩を掴まれて耳元で囁かれる。

「……あぁいう軽い女に餌を与えちゃダメだよ」

 さらっと、三つ編みに刺している簪を撫でていく。
 振り返ったときには次の人の案内をしていて、後ろ髪で銀の蓮が光を帯びていた。

「餌って」

 手、振り返しただけなんだけど。

  ◆ ◆ ◆

 午前最後の競技は借り物競争。

「灰野、出るのか」

 スタッフで忙しいのによくやる。さすがは優等生。
 一応応援してやるか。

「がんばえー」

 やる気のない声援が届いたのか、お題の紙を持った灰野がこっちを見た。もう一度ピンチのぷいきゅあを応援する幼女のようにがんばえーと……って、なんかこっち来た。

「佐藤くん、一緒に来て」
「え、はい」

 手を掴まれて、そのまま引っ張られる。
 そのまま一緒に走ってゴールテープを切った。

「やった、1位だね!」
「そうね」

 で、お題ってなに?
 尋ねる前にスタッフが来て、灰野の持っていたお題札を回収していく。なんでぎょっとして俺と灰野を見てるの?

「えぇっと、おふたりは……」
「問題がありますか?」
「い、いえ! 大丈夫です!」

 パワハラ上司かな、こいつ。圧をかけてビビらせるな。
 また1位の列に並んで、こしょっと灰野に訊く。

「で、お題ってなに?」
「それは――」

 灰野が微笑んで、そっと唇に人差し指を当てる。

「秘密」

  ▢ ▢ ▢

「こんなお題あったっけ?」

 生徒会長が持ってきた紙を、改めて確認する。

『気になっている人』

 借り物競争のお題は先生監修のもと、体育祭のスタッフが決めている。
 みんなでお題をあれやこれやと上げているときは、悪ふざけとかもあって『恋人』とか『好きな人』とか入れてたけど、先生からブーとバツを出されていた。ご時世的に許されないらしい。それはそう。

 だから、ハチマキとか鉛筆とか、そういうありきたりのものしかなかったはずなんだけど……省き忘れ? 気になる人なら、別に異性じゃなくても通じるし、いいのかもしれないけど。

「でも、生徒会長のはそういうことだよ、ね?」

 手、繋いでたし。笑顔で見せつけられてしまった。
 私のです、って。