第1話 クラスの女子の抱き枕になって、敷布団になる
以心伝心のときと、宇宙人と話しているときの落差が激しい。
いまは宇宙人で、猫みたいに丸まってるから宇宙猫だ。違うね。
「リラックスしたいときはトランクスがいいって」
「誰が言ってたの?」
「チャッピー」
AI信じ過ぎじゃない?
「ほんと? 嘘混じってない?」
「ソース」
スマホを突きつけられる。
チャッピーの履歴かと思ったが、普通にWebサイトだった。本当にあるのか。あと、AIを盲信してないで、ちゃんと追加で調べてたんですね。さすが委員長。さすいい。
「疑ってごめんなさいは?」
「ごめんなさい」
「よし、許さない」
そこは許す流れだったろ。
「というわけで、罰としてパンツちょうだい」
「コンプラ」
「KonsentoPlastic」
「思いつかなかったんだね?」
「昆布茶」
コンプライアンスから逃げたいのだけは伝わってきた。
「レディース用の男性トランクスとかあるし、試してみたいと思ったの」
「どっちなんだい」
「筋肉ルーレット……はできない」
でしょうね。
そっと灰野が豊かな胸部に両手を置いた。普通は胸の上に手を乗せることもできないと思うんだけど、簡単そうですね。
「タピオカチャンレジはいける」
「現存してるの? タピオカって」
「絶滅危惧種ではあるね」
流行の風化は早いね。
「脱げ」
判断も早すぎる。
「自分で買え」
「……男の人のパンツを買うのは」
「マインスイーパーやってる気分」
頬まで染めて。
羞恥心がどこにあるんだ、この子は。もっと恥ずかしがるところあっただろ。初手とか。
「女の子は地雷でいっぱいだから」
「危険物取扱者試験受けるかー」
繊細すぎる。
◇ ◇ ◇
「委員長ー! 生徒会長就任おめでとー!」
打ち上げの発起人がグラスを掲げる。
いぇーい、と集まったクラスの女子たちが近くの子とグラスをぶつけてカチンカチンと音を鳴らす。
「ありがとう」
私はといえば、お誕生日席でニコニコしている係。ある意味楽ではある。
なにを歌うか訊かれてデンモクを渡される。
自認を海外アイドルにするか、最近人気のアニメキャラにするか悩みどころだ。いま、マイクを握っている髪を伸ばし始めた子は、社会に反抗してうっせーわしてるので自認世界一の歌姫。
「いいんちょー、髪色自由とかネイルおけーとかできないー?」
髪色が青でインナーカラー白、ネイルギラギラの女子がさらっと校則変更を求めてきた。
「生徒会長に校則を変える権限はないよ」
「ざんねんすぎるわー」
爪見てないでこっち見て話して。
生徒会長をなんだと思ってるのか。
この子だけじゃなく、他の女子も似たようなことは言っている。冗談交じりに、姑息に逃げ道を用意しながら『できないかなー?』って。
できないし、やらない。
そういうのを言われると、選挙の応援も下心があったんだろうなと思ってしまう。この祝いの場すら、打算が透けて見える。笑顔の裏で確実に減っていく。MPに似たなにかが。
「そうだ、御田さん」
鞄から包装されたプレゼントを渡す。
「誕生日おめでとう」
「え、うそ!? 覚えててくれたんっ!?」
大げさにビックリして、わーありがとーとぎゅぅぅうっと胸に抱いている。
「バスソルト、今度使ってみて?」
SNS映えする見た目がかわいい物を選んだから。
「絶対使う! もー今日は灰野さんのお祝いなのに~。でも嬉し~!」
見て見てー、とさっそく見せびらかしている。
こういう貢物……もといプレゼントは、男から女からでなくても効果はある。心象アップに効果的で、私にとっては贈り物というよりお歳暮に近い。
十分私も打算的だな。
女だなー、と強く感じる。
「灰野さんの誕生日はいつ? ぜっっったいお祝いするから!」
「いいのに、そんな気にしないで」
現実に副音声が聞こえるボタンがなくてよかったとつくづく思う。
しつこく訊かれたので結局答えたけど、私の誕生日はもう過ぎているので2年生の間で祝えない。サメ啓発の日。
「なら来年!」
「楽しみにしてるね」
今度、忘れるよう神社で祈願しよう。
でも、そう……誕生日。
「ふーん」
「いいんちょ、ニヤけてる」
ニヤけてない。
◆ ◆ ◆
「星座占いやるから、誕生日教えて?」
……?
「なに急に。自然と誕生日を訊き出したいから占いってことにしようみたいな質問」
「…………」
「その顔やめて?」
すげーしかめっ面するじゃん。美少女でも堪えないよ、その表情は。
週明けに呼び出されたかと思えば、抱き枕にされて挙句これだ。至近距離でそんな顔を見せられている俺の身にもなってほしい。
「律は学校生活で空気の読み方を学ばなかったの?」
図星らしい。一番星だねって言ったら叩かれるかな。
「授業に空気読みはないから」
「欠片も空気が読めないSNSバトラー」
「うわっ、私のKY度診断低すぎ」
でも、あのゲームって空気読まない方が面白いよな。パ◯ンコ。
「でぇ、誕生日はいつなんですかー?」
「グレちゃった」
「ばぶー」
赤ちゃんってグレるの?
にしても、誕生日ねぇ。どういう流れで気になったのかはなんとなく予想はつくけど、知ったところでと思うのは俺が交友関係に冷めているからだろうか。
「誕生日、はー……」
「溜めないで」
「そういうつもりはなくて」
本当に。
「咄嗟に出てこないんだよ」
「自分の誕生日なのに?」
「なのに」
こくん、と頷く。
「……普通忘れないよね?」
「誕生日って感覚がなくて」
祝われないから、とは言えない。欲しがってるみたいだから。
仕事で忙しい母は誕生日だろうが帰って来ないし、俺もそれが当たり前になっている。ただの平日。サイトの登録とかで入力することはあるけど、それが誕生日とイコールで繋がらない。
「ん~」
「灰野はいつも急だな」
猫みたいに気分屋だ。
横に並んで抱き枕にされてたかと思えば、折り重なってきた。重力に引かれて、灰野の体の柔らかさが伝わってくる。最近は、金木犀の香りを嗅ぐと、心が安らいだ。
「なら、私が一番最初に律の誕生日を祝ってあげる」
「さすがに幼少期は祝われてたな」
ほっぺを頭でぐりぐりさせる。痛いって。
「前祝い」
唇が触れる。
「で、誕生日は?」
「夏」
「いつだって?」
「7月2日」
過ぎてるじゃん、とお腹に肘を落とされた。