第4話 ネットカフェでご褒美は添い寝

「灰野さん着物!? すっごい似合う~!」
「ありがとう、御田さんもかわいい私服だね」
「あ、わかるー? お気に入りで――」

 試着室のカーテン1枚隔てて、なんかキャッキャしてる。
 バレたら面倒だな。そんな気持ちもあるが、バレたところでという気持ちもある。必死に隠そうという意思はなくて、閉じ籠もってるのが辛くなったらさらっと抜け出そう。

「灰野さんもショッピング?」
「うん、そうなんだ」
「着物は買ったの?」
「違うよ、レンタル」

 あと5分待ってもいなくならなかったら飛び出そう。

「高校のある駅近くに写真館があって、着物の貸し出しもやってるんだって」
「へー! いいなー」
「わたしもレンタルしようかな」

 着物はこのショッピングモールのテナントで借りたんだけど……さらっと嘘いたな。

「そういえば、隣の駅で花火大会もあるね」
「花火」
「大会!」

 これクラスの女子が2人いるのか。声だけで別人判定できない。どっちもキャッキャしてるし。声高いし。

「写真館は今日は15時までだったかな?」
「あんまり時間ない?」
「でも、いまから戻れば間に合うくない?」

 どうする? みたいな話し合いが聞こえてくる。

「行く?」
「行こっか」

 決まったらしい。

「灰野さんも一緒にどう?」
「お誘いは嬉しいけど、家族とね」
「ならしょうがないかー」

 また学校で、と別れの挨拶。
 壁に寄りかかっていると、カーテンが勢いよく開いた。どうよ? みたいな顔をしている灰野に、俺は胡散臭そうな視線を向ける。

「嘘き」
「嘘は言ってないから。写真館で着物を借りられるのは本当だもの。私がそこで貸してもらったとは言ってないし」

 詐欺師かな。

「家族と花火大会観に行くの?」
「律、記憶喪失? このあとはお昼食べて、買い物して、最後にネカフェでしょ?」

 知らない予定を組まれている。本当に記憶喪失かもしれない。

「家族とねってなに?」
「不意に出ちゃっただけ。ほら、私、家族想いだから」
「……パパ活女子とかやらないでね?」

 マニュアルとか作って、売り捌きそう。

「パパ~、あーしあの服ほしーなー?」
「よーしパパ頑張っちゃうぞー」

 しなだれかかって柔らかい体を押しつけてくる灰野とそのままパパ活ごっこをする。

「パパー? どの下着がいい?」
なんてとこ連れくるんだよ白のレースでリボンがついたフリフリ

 下着コーナーは女子同伴でも居た堪れない。というか、パパ活ごっこってなに?(急に冷静)

  ◆ ◆ ◆

 日傘は買えた。
 が、目的のモノよりも荷物が多いのは、ショッピングあるあるなのか。

「俺って今日荷物持ちだったっけ?」

 両手にアパレルの紙袋。
 それをネカフェの部屋で下ろして、ぽむっと尻もちをつく。

「見てたら欲しくなるよね」
「欲望に忠実なことで」
「女の子だから」

 それ言えば許されると思ってる?
 遠慮なく荷物持ちにされたせいで疲れた。服とか靴であまり重いモノはないけど、それでも積み重なれば嵩張るし、重くもなる。

「灰野の体重と一緒だな」
「ん? 羽根のように軽いって話?」
「うぇばー……フードコートで食ったラーメンが出るぅ」

 力尽きて倒れた俺の横腹に座ってくる。
 弾力あるお尻を動かして、位置を調整しないでほしい。心がもにゅっとなる。

「いい椅子」
「女王様かな?」
「鞭買っとけばよかった」
「女王様だな」

 同じ単語なのに意味が180度違うが。

「付き合うつもりで付き合わせたのは事実だし、ご褒美を上げますか」

 ぺしぺし尻を叩くな。俺は豚じゃないので、それはご褒美にならないぶひー。

「アイスコーヒー取ってきてあげる」
「わーうれしー」

 ドリンクバーじゃん。
 労力が褒美というのか。それ、いつも俺がやってるんだけど、俺は毎回ご褒美をあげていた? 対応する努力や結果がないのが不思議でならない。

「疲れてるときはガムシロップとクリームだよね」

 クラスの女子が俺を糖尿病にして殺そうとしてくる件について。
 不穏な言葉を残して部屋を出ていく。

 アイスコーヒー持ってくるんだよな? 見た目だけはアイスコーヒーの砂糖汁とか持ってこないよな? やっぱり自分で取りに行くべきだったかも。

 そう思ったけど、一度横になると駄目で、視界がうつらうつらしてくる。フラットルームって、床が全部クッションになってるから、ベッドみたいで横になると眠気を誘ってくる。

「ネカフェをホテルにする人もいるって……」

 聞く、し。
 それもわからなくはない……かな。

 ……――。
 金木犀の匂いがする。頬に冷たくて、心地よい感触があって、そのまま身を委ねたくなる。こんな風に寝るのはいつぶりだろう。
 夜は嫌い。
 だって、静けさがうるさくて、眠れないから。

 でも、いまはそれも気にならなくて。

「…………はいの?」
「うん、ご褒美」

 瞼を開けたら、すごい近くで灰野が優しく微笑んでいて。
 俺の頬に手を触れていた。