エピローグ
あれは告白だったのだろうか。
そんな疑問が泡のように浮かんでは、ぱちんっと弾けて消える。
もし恋をするなら――。
そこに秘められた想いは好意の現れのようで、その実“もし”という仮定がついていて俺の思考を妨げる。これで俺のことが好きか? なんて確認して、侮蔑のこもった目で見られようなら耐えられそうになかった。今度は俺が退学から引きこもりコンボを決めてしまう。
やっと落ち着いてきたのに、それもなーと思っているとガラリッと分室の引き戸が開いた。
「おはようございます」
入ってきたのは水無月。
衣替えを済ませた夏服仕様で、ブラウスから伸びる白い腕が寂れた分室の中であっても眩しい。目の下には化粧で隠しているが薄っすら隈があって、まだ先日の名残りがあることを実感した。
「おはよう、室長」
「……なに、当てつけですか?」
むっと眉を潜めて、ジロリと睨んでくる。いーえそんなつもりはありませーん、と俺は両手を大きく上げる。
おちゃらけて見せたが、本当に当てつけのつもりはない。
ただなんとなく、もとに戻ったんだなーという実感が欲しくて、呼んでみたかっただけだ。
あれから水無月は帰ってきた。
学校に、寮に――分室に。
まるでなにごともなかったように振る舞っているが、やはり迷惑をかけたということで、水無月はここ数日謝り通しだったらしい。
『…………もう2度と、短気な真似はしません』
分室の本棚の上で、陰鬱そうに零すくらいには大変そうだった。
幸い、退学も退寮もすべて口頭でのことで、しかも、保護者を通していなかった。子どもの一時の癇癪、ということで今回は片付けられ、三枝先生からの厳重注意と反省文という形で収まったそうな。
そうして戻ってきた水無月は、どこまでも普通で、俺を睨みつつも窓際の本棚の定位置に収まる。鞄から本を取り出し、ぺらりとページを捲る乾いた音が分室に響く。
勢い任せの勘違い、かな。
変わらないその姿を見ると、そう思えてしまう。少し寂しくはあるが、丸く収まったのだからよしとしよう。そんな風に、自分の中でモヤモヤしていた感情に結論を出して、忘れようとしたのだけど、
「――鷹宮」
俺を呼ぶ声に顔を上げると、水無月が本で口元を隠して俺を見ていた。
「忘れないで」
窓から差し込む日差しに焼かれたように赤い頬。
その手に持っている本のタイトルは『初恋』で、去っていこうとした感情がただいまと笑顔で帰ってくる。
恐ろしく早い出戻りに、当分、この感情は抱えたままだなと、そんな予感がした。
◆恋愛チートを貰っても、俺たちは恋ができない。_fin◆