第3章 幼馴染は負けヒロインだけど、再会系幼馴染は強い。

第1話

『運命系の子は、結構重いから注意が必要だね。おもーいヤンデレタイプ!』

 寮の自室で、ベッドに転がりながら恋愛能力系Vtuberの動画をぼーっと観ていた。
 兄たちは昨日のうちに帰って今日は暇だったのだが、肉体ではなく心的疲労があったのかどうにもなにもやる気が起きず、せっかくの休みなのに動画を観続ける怠惰な生活を送っていた。
 画面の中では、かわいい女の子のイラストがよく動いている。

『再会系も。昔の恋を引きずってる子は重いよねー』

 最近の動画は恋愛能力チート関連の動画が多かった。
 元旦から始まったブームの火付け役は神様で、しかも物語の中にしかなかった能力チートが現実になったのだから、当然の帰結と言えた。

 おすすめ欄は恋愛能力チート一色で、新規も古参もネタ被り。まったくもってかわいげがないけど、こうして暇だからと観てしまうのだから、アプローチとしては正解なんだろうと思う。再生数がすべて。

「性格診断ねー」

 占いとか、そういうの。
 朝のニュースの占いも、星座や誕生月から恋愛能力チートになって久しい。血液型占いとかもそうだけど、たかだか数十のタイプ分類で数万数億人の性格や運命がわかるかという話だ。

 恋愛能力だってあの露出狂女神が無作為にバラまいただけで意味なんて絶対にない。じゃなきゃ、俺の能力チートが【恋愛能力が効かない】になるはずがなかった。
 ガチャだろこれ。サポートセンターの連絡先を教えてください。

「……俺の場合、どうなんだろう」

 容姿系がもっとも有名だが、おおよその分類ができるくらいには情報も出回り始めている。とはいえ、ポ◯モンのタイプ一覧みたいなちゃんとしたものはなく、テレビの占いとか性格診断で使われていたものが広まったくらいで、モノによって変わってくるんだから適当だ。

 その分類に当てはめると、俺は例外系。
 なんだか格好よく聞こえるが、やっぱりこれも見た目だけで中身は空っぽ。ようするに特殊すぎて分類できないからひとまとめにされたその他。アブノーマルとか自慢しているのを見て、ちょっと笑った。前向きだなーって。

『――例外系の人たちは、並々ならぬ情熱がある人が多いみたい』

 清楚系お嬢様キャラ捨て、素のギャルっぽい性格が受けて小バズリしているVがそんなことを言う。

 ◆ ◆ ◆

「あっつぃ」

 うだるような暑さとはこのことだろうか。
 滴り落ちる汗が止まらなくて、別館の廊下にぽつりぽつりと歩いた跡を残してしまう。
 6月も中旬を過ぎた。

 梅雨明けの発表はまだないが、もうまもなくだと知らせるように今日は快晴だった。湿度は高いのに、青空はどこまでも澄み渡っていて、影1つ作らせないほどの日差しを降り注いでくる。

「日傘買うかなぁ」

 昔はそれほど気にならなかったが、ニュース番組の特集で男女で人気と見る。実際、最近の日差しは肌焼けとか気にする以前に、死を予感させた。
 外を歩くのも命がけで、帽子だけではどうにもならない。

「お疲れさま……あつぃ」

 分室の中も蒸し蒸ししていた。一応、冷房はついていて、外よりはマシではある。だが、昨今の電気代高騰のせいか、はたまた環境問題か、気温設定が28度なのはクレームを入れたい。

「神様がいるなら、恋愛よりもこの暑さをどうにかしてくれ」
「鷹宮」

 愚痴を零していたら、水無月に呼ばれた。
 その声は咎めるもので、見ればこっちに細めた黒い瞳を向けていた。なんだと思えば、彼女は珍しく椅子に座っていて、その正面には見慣れない女子生徒がいた。
 おっと、まさかのお客様。

「……すみません」

 会議中に遅刻でやってきたというか、カラオケで部屋を間違えたというか。
 やらかした羞恥でいたたまれず、静かに格子窓の引き戸を閉める。

 そのままこそこそと窓際の本棚に移動しようとして、「鷹宮」とまた呼ばれる。なんでしょう、と見れば空いている隣の席の座面を叩いていた。座れということらしい。
 失態を演じたあとで、晒し者みたいなのはごめんなんだけど「鷹宮」はいはい行きますとも。

「すみません、話を遮ってしまったみたいで」
「――構わないよ」

 薄く青みがかったさらさらの髪が涼やかに靡く。
 癖一つない瑞々しい髪は重力に従って素直に落ちる。振り返ったその整った凛々しい顔立ちは、女性的にも男性的にも見えて、スカートじゃなかったら勘違いしていたと思う。

 爽やかな微笑みは女の子がキャーキャー言うタイプの色気があって、モテそうだなーという感想を抱く。主に女子に。

「キミも室員なのかな? 相談に乗ってくれるのなら、こんなにありがたいことはないよ」
「お、おぅ」

 眩しい顔面に気圧される。
 顔面だけで生きていけそうな人だ。分室にも顔面だけで生きていけそうな子はいるが、人嫌いな猫ちゃんでよく人の手を引っ掻くので、生かすも殺すも本人次第なんだなと実感する。

「美人にも2通り……」
「なにをどう比べたのか教えてくれますか?」

 男前な相談者と違って、こっちは爽やかさの欠片もない重っ苦しい笑顔だった。なんなら、目が笑ってないし、湿度がヤバい。すすっと、何事もなかったフリをして隣に座ると、呆れた吐息が耳を打った。

「ごめんなさい、話を遮って」
「気兼ねない関係で、羨ましいくらいだ」
「無礼の間違いです」
「それはお互い様……なんでもないです」

 ジロッと横目で睨まれたので口をつぐむ。立場が弱かった。まぁ、相手は室長だし、役職的にも俺が下なのは間違いないけど。
 口元を隠してクスクスと笑う相談者さん。
 困ったことにそれだけでも絵になるのだから、暴力的な美だった。

「それで、どんな相談なんですか?」

 これ以上、水無月とじゃれていると漫才コンビかなんかだと思われかねない。一応、ここでは、名目上、室長と室員である。コントで笑いを取る仕事はしていない。

「相談なんだけど……」

 急に淀む。
 これまで立て板に水みたいに流暢だったのに、微かに視線を落として躊躇ためらいがあった。
 そんな話し難い内容なのか?

 前回の卯木さんの件もある。ミステリーの十戒なんて、神様から与えられた恋愛能力チートにはなんら関係がないこと。なにが起きていても不思議ではなく、どんな内容なのか身構える。
 じっと話し出すのを待っていると、不意にその頬に朱が差した。

「…………初恋の人を、見つけてほしいんだ」

 口にするのも恥ずかしそうな照れた表情は、恋する乙女そのもので。
 予想だにしないという斜め上というか、むしろドストレートというか。
 ちらりとも考えていなかった相談内容に俺は「……なんて?」と聞き返すことしかできなかった。