第6話 おっぱい枕は現実にあった
休みの日は忙しかったりする。
朝食を作って、掃除をして、洗濯をして。
「主夫みたい」
なんて、自虐をかましながら掃除機をかける。自動掃除機とか気になるけど、あぁいうのは高いし、そもそも角とかちゃんと掃除できるの? 俺の方が有能なんだけど? とか思いつつ、せいぜい買えても百均のなんちゃって自動掃除機だ。
「……あー、誰かわからん」
テレビを点けてもよく知らない人ばかりだ。人気の芸人とかアイドルとかが出演しているけど、名前すらわからない。漫画キャラなら言えるんだけど。
内輪ネタで盛り上がってるバラエティはつまらないので、テレビを消す。家事が一段落すると、やることもなくなってぼーっとしてしまう。
「映画……観るかな」
ネカフェで漫画読みたいけど、土日のネカフェは割増で高い。それに、灰野に連絡せずひとりで言ったらなにを言われるかわからない。かといって、誘ったところで休みは勉強で忙しいって言うし。
金のない学生ができる暇つぶしなんて、サブスクの映画とかアニメくらいなものだ。
「映画、映画……鮫」
B級ってわかってても、鮫映画って妙な求心力がある。
飛んだり頭が増えたりトルネードだったりする鮫を倍速で観て、
「飽きた」
リモコンを捨てた。
◆ ◆ ◆
「映画観る」
「AV?」
「アニマルビデオではある」
翌週、25日。給料日ならぬお小遣い日。
金がないからと断り続けた久々のネカフェに連行されていた。机の中に白い紙じゃなくて赤い紙が入っていて、徴兵でもされんのかと思ってビビる。
「大丈夫、私偏見ないから。一緒に観るよ」
「クラスメイトとAV観るとか、新たな性癖開拓じゃん」
「曝け出していこ、性癖」
「オブラートでもいいから包んでください」
なんでネカフェに来て、クラスの委員長様とAVの話してんの? いや、アニマルビデオだけど。
フラットシートにべたーっとしていた灰野が起き上がる。その拍子にスカートの奥が見えたが、最近はチラ見え程度じゃなにも感じなくなっている。
ネカフェだと隙だらけで、頻繁に見えるから。ありがたみは日々薄れていた。
「NTR、痴漢、企画モノ……やっぱり定番はマジックミラー?」
「未成年」
拙いマウス扱いでカチカチエロ動画サイトを開くな。というか、こういうお店、未成年が入るなら観れないにしておくべきではなかろうか。パソコンにもタスポをつけてくれ。
マウスを取り上げて、動画サイトを開く。健全な方な。
「なに観るの?」
「んー? 鮫映画」
「ドMなの?」
「Misconception」
スプラッタ映画を観る奴は漏れなく被虐趣味だと思ってるのか。サドだって陽キャならジェットコースター乗るんだからあまりにも偏見がすぎる。(ド偏見)
映画を探す。
それを、後ろから覗き込んできて、そのままするりと腕を回してくる。
「重いって」
「どのくらい?」
「リスカする彼女くらい」
「おもーい」
ついでに背中でむぎゅっと潰れて柔らかい。
「どのくらい?」
「羽毛布団」
「えろーい」
なにかわからないが喜んでるからいいか。……いや、全然よくないし背中のおっぱいのせいでマウスカーソルぶれっぶれなんだけどありがたみ薄れたとか嘘だった。
「というか、なんで急に映画? いつも漫画なのに」
極力背中を意識しないようにしながら、画面に集中する。
「休みに映画ひとりで観てて」
「うん」
「つまんなかったから」
こひゅ、と首筋に息をかけないでくれ。ぞわる。
「……つまんないのに、また観るんだ?」
「楽しいかなって」
一緒なら、という頭につく装飾は外しておく。調子に乗りそうで、なにより口にするのは恥ずかしかったから。
「なら、一緒に観るかな」
でも、たぶん伝わってる。
「寝てなくていいの?」
「寝ながら観ればいいでしょ」
「ぐぇっ」
そのまま首を絞めるように後ろに引っ張られる。
灰野の柔らかい体がクッションになって痛くはない。電光が眩しい。おっぱい枕って現実にあるんだなと、妄想の世界から飛び出してきたふくよかさを頭の後ろで感じながら思う。
「これじゃ観れないだろ」
天井しか見れん。
「なら、こうで」
ごそごそ体勢を直されて、灰野の股の間に埋まることになった。
……なんか、密着度ヤバくない?
さっきも十分ヤバかったが、これはもう抱き着いている。恋人だってここまでするか? どうなんだろう。でも、最近の学生は出会って5秒でホテルって聞くし、これくらいは普通の距離感なのか。
友達いない俺にはわからないけど、
「うわー、楽しいこれ?」
「そこそこ」
いいか、別に。
◆ ◆ ◆
天気予報はにわか雨。で、一日中ずっと雨。
「にわか……雨?」
教室の窓にぽつぽつ当たって流れる雨粒。普通、降ってすぐ止むのがにわか雨なのでは? それとも、小雨以下の雨は全部にわか雨って呼ぶのか。言葉の意味が問われる。
灰野から教わったチャッピーに聞くか。
「灰野さーん、わたし、バスケ部の部長のことが好きなんだー」
Q.クラスの女子が他の女子に自分の好きな人を報告するときは、と。
灰野の席で、マッチングアプリのCMで踊ってそうな女子がニコニコ笑顔をしている。朝の教室で、まだ登校している生徒が少ないとはいえ、好きだ嫌いだよく言えるものだ。
昼の見出しが決まったレベルで、ソッコー噂が広まるだろ。
朝一にそんな告白をされた灰野は、きょとんっとしたあとパンッと手を合わせた。その声は明るい。
「くだらない牽制してないで、さっさと本人に告白して振られてて」
副音声が聞こえるんだけど、これもエスパーって言うのだろうか。
◆第2章_fin◆
__To be continued.