第3話 side.ユーリアナ ひよったその理由

 己の不甲斐なさに泣くということが、私の人生で起こるとは思わなかった。
 膝の中は暗闇で、いまばかりはこの暗さが心を落ち着ける。

「……返事を聞くのが」

 こんなにも怖いとは思わなかった。

 告白の返事を保留にした理由に嘘はない。
 旦那様は家族を理由に断るだろうことは最初から予想していた。なによりも家族を優先する彼が、火種どころか猛火になりかねない公爵令嬢を受け入れるとは思っていない。

 私の告白はルルリス彼の妹に触発された衝動的なものだったが、それはいい。
 旦那様を好きとわかった時点で、気持ちを伝えるのは前提だった。そうでなければ、なにも変わらない。なにせ、旦那様から動くことは絶対にないのだから。
 それを意気地なしと思う自分と、家族のためなら仕方ないと思う自分が丁度半々心の中にいる。

 だから、現状を変えるなら私から動くのは必然で、義務でもあった。

 辿り着いた結果は私の想定通りで、なにも間違えてはいない。それでも、その過程は見るに耐えない臆病さだった。

 もし、彼の口から『嫌い』と言われたら?

 告白の返事をと旦那様が口にした途端、そんな薄ら寒い悪寒が私の背筋を震わせた。
 そんなことはありえない。
 だって、彼は私に好意的だ。公爵令嬢という立場柄、多くの人間を見てきたからそうした感情の機微には敏感だった。面倒だなんだと口にしつつも、伝わってくる感情に決して嫌悪はない……はずだ。

 思うだけで弱気が顔を出す。
 計算の結果は間違っていないはずなのに、何度も答えを確認してしまうような感覚だった。正しいのに、心の内側に“もしかしたら”が張り付いて離れてくれない。

 そもそも、嫌いでなくても、告白を断られるというだけで凄く嫌だった。
 旦那様の動機も気持ちもわかっているのに、拒絶されるというだけで耳を塞いでしまう。

「……ロマンス小説のヒロインを、もう笑えないな」

 好きなのに、いつまでもうじうじと。
 さっさと告白して自分のモノにしてしまえ。読むたびにそう思ったものだ。どうして想いを伝えないのかと。

 私なら相手の事情も想いも無視して、すべて手に入れるのに。
 その上で幸せにすればいい。
 あとのことはあとに考えるべきだ。

 いまでもその気持ちに代わりはなかった。だというのに、結果はこの有り様だ。あまりの不甲斐なさに吐血しそうだ。

「こんな調子で、なにもかも忘れさせるくらい私を好きにさせるとかできるはずもない」

 ならばどうするか。決まっている。
 顔を上げる。反省も、羞恥も、己の怒りもすべて呑み干す。

「旦那様を惚れさせる、それだけだ」

 臆する自分は踏み潰す。
 立ち上がって背筋を伸ばす。

 高慢に、けれど確かな自信を持って不敵に微笑む。
 ユーリアナ・アルローズは、白馬の王子様が助けに来てくれるのを待ち続けるほど、弱くはないのだから。

 ……ただ。

「さむぃ」

 日を置いて顔を会わせた旦那様が、何事もなかったように平然としているのには、さしもの冷静な私もいらぁっとした。
 ちょっとは意識しろ、不感症か。